たばこの本いろいろ

ショートピースの記念・非売品デザイン箱を集め始めて約3年。徐々に他の銘柄にも手を出してきて収拾がつかない収集家になりつつあります。
現物をちまちま集めないと全貌が掴めない厄介な代物なのかなと思っていましたが、やはりコレクターズアイテムとして発売当時から既に注目されていたようで、今までどのようなものが発売されたのかが一目で分かる本がいくつか出版されていることを発見しましたので、そういった本をいくつか集めてみました。
記念・意匠替えたばこという文化がほとんど無くなってしまった現在ではそもそも遡りにくい情報なので、このように写真集の形で本にまとめられているのはかなり資料価値が高いものだと思います。

特別意匠たばこ包装集

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日本専売公社内で執務参考用に作られたデザイン集を社団法人専売事業協会が書籍化して社内用デザイン集の再販という形で1969年9月に発売された「特別意匠たばこ包装集」という本。タイトルの通り、通常のデザインのパッケージではなく記念品として作られたものだけを発売年度順に集めたものです。
序文には記念たばこがいかにして誕生・発展して昭和44年現在に至ったかが書かれており、デザインとしての重要性や資料価値について考察されています。
国家・行政のイベント開催時や何かしらの記念日などに発売される「記念たばこ」(大正4年度〜昭和15年度・昭和23〜43年度)、挙国一致・皇軍慰問用に戦中の昭和12〜13年度に作られたものと戦後に発売された通常品の地色や絵柄を変えたものと観光地限定で発売された「意匠替えたばこ」、そして「広告つきたばこ」が全てカラー写真で掲載されているとんでもない優れものです。

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朝日、敷島、チェリー(初代)などの戦前の記念たばこ。

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戦後の記念たばこ。「こだま号」デビュー記念のピースや、ソ連輸出用の「ハイライト」、地色を変えた「五色ピース」が集まったナイスなページ。

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日本万国博覧会協賛の広告つきたばこ。などなど。
カラーページはパッケージの前面だけを写しているため、補完としてモノクロページに展開写真が掲載されています。

巻末には発売年や発売場所、発売個数を一覧にした表もあり、非常に良い資料集です。

前述の通り元々は日本専売公社の内部で使うための資料として出版されたものですが、なんらかのルートでそれを知った者、貴重な製品群のデザイン集として着目した人、展覧会「たばこ美術展」で専売公社用のものが展示され読んだ者などが多くいた結果、一般書籍として販売してくれという声が殺到したために発売された面白い経緯を持つ本です。このような本の一般販売を望む人がいて実際に出てしまうのも、当時の喫煙率の高さを物語っているように思えます。

記念・観光たばこデザイン 第1集

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特別意匠たばこ包装集」の存在を後から知った人や、「たばこ友の会」発足によるたばこパッケージ収集家の増加を受けて、タイトルを「記念・観光たばこデザイン」に改題して1972年に再販されたもの。再販なので中身はほとんど同じです。

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凡例
左:記念・観光たばこデザイン 第1集
右:特別意匠たばこ包装集

再販にあたり序文の追加などはありますが、一番大きな違いは巻末の総目録に記載されていた発売個数の単位が「千」から「万」に変更された点。そもそも一つ一つの発売数が多いので、単位の変更は良い判断だったかもしれません。

記念・観光たばこデザイン 第2集

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記念・観光たばこは「特別意匠たばこ包装集」発売以後も引き続き生産され、バリエーションも日を追うごとに増えていきました。「記念・観光たばこデザイン 第2集」では、第1集にも掲載されているものを一部含めた上で、昭和44年度から46年度にかけて発売されたものを掲載しています。大正4年度から昭和43年度までを一冊にまとめていた第1集と比べるとものすごく短期間のものですが、それだけで1冊出来てしまうというあたりに記念・観光たばこの生産が旺盛だったことが伺えます。

イラストが主流だった昭和45年頃までと、昭和46年以降の写真を用いたパッケージが増えてきた境界を見ることが出来るのもこの本の存在意義を高めています。
また、ハイライトやチェリー、セブンスター、ロングピースなどのフィルター付きたばこが両切りたばこの人気を凌いだことによって、本書に掲載されているたばこが全てフィルター付きのものになっているところも時代の流れを読み取ることができる貴重な資料と言えます。

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昭和44年から45年にかけてはまだまだイラストが主流です。やけにビビッドに塗られた大阪万博デザインのルナ、セブンスター、ホープが目を引きます。

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ハイライトは通常デザインを元にイラストを追加したようなものが多く、ピースは自由気ままにデザインされているものが多いなど、一言に観光たばこと言っても銘柄別のスタイルがあるのも眺めていて面白いところです。

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昭和46年に入ると観光地の写真を採用したものが急増し、外箱付き2個入りという販売形態を利用して繋げると1つの絵になるものも出てきたようです。このページでは左上の「東京」がそれに当たります。

1974年には第3集が発売されているようですが、なかなか手に入らないので入手次第追記したいと思います。

日本のたばこデザイン 1904 1972

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先の3つはあくまでも非通常デザインの写真集。じゃあ通常デザインの方もあったの?とお思いの方もいらっしゃると思いますが(いるのか?)、ちゃんと発売されています。
1972年3月10日に限定2000部が発行された「日本のたばこデザイン」という、そのままの表題の本です。各銘柄におけるデザインの変遷を見ることができます。

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1906年から2019年まで発売されていた超ロングセラー「ゴールデンバット」は当時既に66年の歴史を持つ銘柄でした。昭和15年から24年にかけて「金鵄(きんし)」に改称されていた時期を含めて多彩なバリエーションがあります。
パッケージを作るのに精一杯でデザインどころじゃなかったものもあり、必需品ながら削るところは削らなければならない戦争の暗い影もたばこから見出すことができます。

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封緘紙のページなんてのもあります。単に箱を留めている封緘紙と言っても色々なデザインが込められているのです。

巻末には銘柄ごとのデザインの話も掲載されており、非常に興味深い内容です。たばこ、侮れません。

'73 記念たばこカタログ

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「たばこ友の会」に入会すると購読できる月刊誌「煙趣マガジン」の別冊として1973年7月20日に発行された「'73 記念たばこカタログ」。上の4冊はあくまでも資料集、社内向けのものを一般に販売したものですが、こちらはマニア向けのカタログです。オールモノクロ、写真は全て展開図となっています。付録として誌面上で行われた入札会の結果が封入されていました。たばこパッケージの入札会って面白いですね。自分が言うのもなんですが、マニアの熱量ってすごいです。

表題の通り、「記念・観光たばこデザイン」を記念品と後述の観光品で分けてあります。

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中身はこんな感じ。「特別意匠たばこ包装集」のモノクロページを再編したものと言えますね。
でもこういうのはカラーで見てこそやんけ!と思った方、大丈夫です。ご安心ください。

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カラーで見たければ買えとのことです。

'73 観光たばこカタログ

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そしてこちらが観光たばこの方。広告付きもここに含まれています。

こういった広告があるように、当時はたばこのパッケージ収集がわりとメジャーな趣味としての地位を確立していたことが伺えます。たばこの排除が叫ばれる今では考えられないことですし、面白いですね。



ちなみに先日、大阪の万博記念公園に行った際にEXPO'70パビリオンで開かれていた企画展「プレイバック1970」を見てきたのですが、

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1970年頃のブームの一つとしてたばこパッケージの収集が展示されていました。日本万国博覧会協賛のハイライトが売られていたように、万博とたばこは切っても切れない関係にあるのでこういう展示はあって当然だと思いますが、50年遅れでたばこの収集に手を出したアホな若者からすると、このやってコレクターが収集していた現物を見られるというのは軽い感動モンでした。

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太陽の塔も、このハイライトが無ければ建っていなかったかもしれません。

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万博の写真を見ていると一際目立つ虹色の建物がありますが、これは「虹の塔」と言って日本専売公社のパビリオンでした。以上、余談。