黛敏郎の新幹線車内チャイム(黛チャイム)が収録されたレコードを発見

東海道新幹線には短期間だけ使われた幻のチャイムがあるが、音源が見つかっていないのでどんな曲だったのか不明である」

みたいな記述をどこかで見かけたのは10年以上前。年数回程度であるものの東海道新幹線ユーザーなので、過去のチャイムというものに俄然興味が湧きました。

さてどこかで聴けないものか...と思っていたところの2017年夏。たまたま日車夢工房のサイトを見ていた時に「スーパーディスプレーモデル0系新幹線電車」という模型が目に入りました。2014年に発売されたものです。

「台座に0系で使用されていた車内チャイムを収録!」と説明にあり、チャイムも視聴できるそうなのでなんとな〜く再生してビックリ、例の幻のチャイムが入っているではないですか。

※ツイート内のリンクは切れてます

長く探してきた音源をあっさり見つけてしまい、あまりにもビックリしたので思わずツイートしたら軽く反響がありました。というか発売から3年弱広まってなかったのか。

で、どうやらこのツイートを発端としてこの音源を取り上げた動画がYouTubeに続々アップされるようになり、知名度も上がったようです。

ちなみに工芸品として作られたこの曲のオルゴールはたまにオークションに出されているようですが、どれも高値が付いていておいそれと聴けるものではありませんでした。

「黛チャイム」と呼ばれるようになり、聴く機会も増えたこのチャイム。

2019年に発売された「黛敏郎 電子音楽作品集」にはボーナストラックとして復元演奏が収録されたり。

nayuho.hatenablog.jp

どういうわけか2020年には復元楽譜が発売されたりと、幻だったチャイムも幻からは縁遠くなってしまいました。

さて調べてみると、先の模型に収録されている黛チャイムは「偶然録音されたレコードから発見されたもの」らしく、それ以外の情報が無かったので、個人が録音したものから見つかったのかな〜と思いそれ以上は追求せず。

ある時「そういえば効果音のレコードとかあるよな」とふと思い、調べてみると新幹線の音を収録したレコードが存在しているのを発見。レコードは全てで3枚見つかり、それぞれ録音年が1966年・1970年・1976年となっていました。

黛チャイムの採用期間は1968〜72年なので、収録されているなら1970年のレコードのはず。と、ここまで推測して当のレコードを探してみても全く出回っておらず、入手する機会が訪れるまで足掛け3年かかりました。


前置きが長くなりました。

「スーパーディスプレーモデル0系新幹線電車」でも採用された音源が入っているレコードを紹介します。

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東芝音楽工業の「レールウェイ・ダイナミックス」レーベルから発売されたレコード「THE SUPER EXPRESS HIKARI THE NEW TOKAIDO LINE 新幹線 ひかり 19A (TK-4066)」です。

1970年1月23日(金)、東京発8時50分・新大阪着12時10分のひかり19号の走行音を録音したものです。発車、通過、停車、車内アナウンスなどを抜粋した内容になっています。

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ジャケットを開いたところ。ナイスサイドビュー!

前回同様、解説文を引用します。東海道新幹線について細かく書かれています。

東海道新幹線は39年10月1日に営業開始して以来満5年を経過し、その間に列車が走った距離は44年8月6日に1億kmを越え、乗客数は44年11月2日で2億5千万人を越えた。
万国博覧会を迎えて、車輌数は1,140両に、編成数は85編成に増備され、"ひかり"は16両、"こだま"は12両編成で、1日約200本の列車が運転されている。
新幹線の特長は何といっても210km/hという高速運転にあるが、高速で安全な運転ができるよう線路、車両の構造や保安システムに高度な技術がとり入れられている。
踏切が1箇所もないことは既にご承知の通りだが、線路は標準軌間(1,435mm)で強度の高い50kgレールとコンクリート枕木を使い、1.5kmのロング・レールになっている。ロング・レールの継目には伸縮継目を、ポイントにはノーズ可動方式を使ってレールに切れ目ができないようにしてあるので、鉄道につきものの継目音がないが、駅付近の低速でしか走らない箇所には継目のあるレールを使っており、その音を聞く事ができる。
架線はパンタグラフが離線しないようにコンパウンドカテナリー方式で、3万ボルトの交流を電車に供給する。パンタグラフは極めて小形に作られていて、追惰性が良く背の高い碍子の上に取り付けられているが、200km/hを超えて走行すると、この碍子が風を切るピーという独特の音が聞える。
電車は全部電動車で、1両に185kwの主電動機を4個持ち、2両単位になっているので、パンタグラフも2両に1個取付けられている。
電車を起動させるときは運転台にある主幹制御器(コントローラ)のノッチを入れると、一定の加速力で自動的に指示されたノッチまで進む。運転士は線路の条件や時間を考えてこのノッチを調節するが、電車の速度が定められた信号の速度以上になれば自動的にブレーキがかかって、その速度以下に下げる。
自動的にブレーキをかける装置はATC(自動列車制御装置)といい、レールに流れる信号電流を車上の装置で受信し、運転台に最高速度を示す信号が表示される。
レールは約3kmの区間ごとに電気的に絶縁されていて、列車がある区間に停車した場合、その区間(信号)は0信号、次の区間は30信号、次が160信号、次が210信号が現示されるようになっている。電車が停止するときは160信号を受信し、ブレーキが自動的にかかって、160km/h以下になるとゆるむ、次の区間に入ると30信号が出て同じようにブレーキがかかり、30km/h以下になったときに確認ボタンを押すとブレーキがゆるむ、駅に停車する場合はポイントの部分を70km/hで通過しなければならないので、70信号が間に入る。また、東京付近や一部徐行区間に110信号を使っている区間がある。
30km/h以下の速度になってからは、運転士が手動でブレーキを扱って電車を停止させる。
電車のブレーキは高速の間は発電ブレーキを使い、約50km/h以下になると空気ブレーキに切替って、車輪の両側にあるディスクブレーキをかける。もちろん高速から空気ブレーキだけで停車することもできるし、停電や故障の場合は0信号が現示されて電車はブレーキがかかって直ちに停止する。
運転台にはATC信号の現示される速度計のほか、機器の動作状態を示す表示灯や空気圧力計、電圧計があり、運転士は、ATC信号によって確実にブレーキがかかったり、ゆるんだりしているかどうか、ドアの開閉に異常がないかどうかを確認しながら運転をしている。
"ひかり"は東京−新大阪間を3時間10分、"こだま"は4時間ないし4時間10分で運転しており、運転士は時刻表通りに運転するよう速度を調節する。
新幹線は速度が高いので雪や強風など一寸でも異常があれば徐行運転を行なって安全を確認するようにしているので、徐行によっておくれを生ずることが時々ある。
高速運転の問題のひとつにトンネル内の気圧変化があるが、200km/hでトンネルに突入すると空気圧力が変化して耳が痛くなるので、自動的に気密装置を動作させて客室内の圧力が余り変化しないようになっている。運転台では、トンネル内で電車が風を切る音がよく聞える。
新幹線電車は"音"で聞く限り変化にとぼしいが、この録音から運転台のATC装置の動作や運転士の仕事ぶりの一端を理解して頂ければ幸いと思う。
(筆者は日本国有鉄道東海道新幹線支社車両課長)

ひかりが万博輸送を控えて16両編成化された頃の新幹線が詳細に書かれており、結構貴重な資料かと思います。

このレコードは大阪万博に来る外国人のお土産としての需要も見込んでいたらしく、英文で新幹線を紹介しているページもあります。こちらも引用します。

THE NEW TOKAIDO LINE
JAPANESE NATIONAL RAILWAYS

1. Necessity for the New Tokaido Line
The New Tokaido Line (NTL) - a double track, standard gauge railway - was born out of imperative necessity, with a view to eliminating the bottleneck on the Tokaido Line and making the "artery of japan" ever capable of serving the future economic expansion of this country. The new line was completed after five and half years and put into service on 1st October 1964.

2. Stations
There are a total of 13 stations on the New Tokaido Line, including the two terminals of Tokyo and Shin-Osaka. Most of the stations are located adjacent to the stations on the old line and have convenient facilities for interchange of passengers between the new and the old line. Various equipment and facilities of the new stations, such as ticket windows, gates or escalators, are all made to conform to a uniform design.

3. Transit Time
The distance of 515km (320 mi.) is covered in 3 hours and 10 minutes by the Super Express HIKARI (meaning LIGHT) which stops only at Nagoya and Kyoto, and in 4 hours by the Limited Express KODAMA (meaning ECHO) which stops at all 11 intermediate stations.

4. Train Operation
Safety and efficiency of train operation are guaranteed by A.T.C. (Automatic Train Control) and C.T.C. (Centralized Traffic Control) devices, for which the latest techniques are fully utilized. Instead of the conventional system where it is required to keep a constant watch on wayside. signals, cab signals which are combined with the brake system are installed on trains. Breaks are made of work automatically, applied or released according to whether the train speed is higher or lower than the speed indicated by the signal.
To maintain a smooth and efficient flow or traffic on the line, an indication panel on which the position of train dis patchers' room of the General Control Center in Tokyo. By means of the train radio telephone system, trains on the entire line can be contacted individually or simultaneously for necessary instructions.
The motorman on each train registers his train number with the Control Center, and by means of the automatic route-setting device, his train is guided automatically over the right track till the end of his trip.

5. Safety Measures
A high-speed track inspection car and a high-speed electric testing train are used to perform various inspections speedily and accurately on track and electric facilities.
Against storm disasters, anemometers are installed at 30 key points over the entire line. In case wind velocity exceeds 20 meters per seconds or 45 mph, alarm signal is sent to the control center in Tokyo.
Emergency switches are equipped at very short intervals alongside the track. In case of emergency, anyone can push the button of these switches. With this the feeding current is cut off in the affected area, and trains are automatically brought to a stop.
In addition to the above, seismographs are installed at substations. They are so designed as to cut odd the current in the area concerned, in the event that earthquake exceed a certain limit of severity.

6. Rail
A rail having a new cross-sections. 53.3 kg per meter or 117 lbs per yard, was adopted to provide strength sufficient to withstand high speeds and to maintain safety. Rails are welded into lengths of 1,500 m (about 1 mile) to eliminate rail joints and to improve riding quality. A double-elastic system is used to fasten the rail to the sleeper. In order for trains to pass over at 210km/h (132mph) without jolting, a new movable-nose turnout is also used.

以下、翻訳。

東海道線
日本国有鉄道

1. 新東海道線の必然性
東海道線(NTL)- 複線、標準軌- は、東海道線ボトルネックの解消と、この国の将来の経済成長に対応できる「日本の動脈」を実現することを目的として、必然的に誕生しました。この新しい路線は完成までに5年半を要し、1964年10月1日に営業を開始しました。

2. 駅
東海道線には、東京と新大阪の2つのターミナルを含めて計13の駅があります。ほとんどの駅は旧線の駅に隣接しており、新旧線の乗客の乗り換えに便利な設備が整っています。改札口、出入口、エスカレーターなど、新駅の各種設備はすべて統一されたデザインになっています。

3. 所要時間
515km (320マイル) の距離は、名古屋と京都にのみ停車する超特急ひかり(光を意味する)で3時間10分、11の途中駅全てに停まる特急こだま(エコーを意味する)で4時間をかけて結ばれています。

4. 列車の運行
列車運行の安全性と効率性はA.T.C.(自動列車制御装置)およびC.T.C. (列車集中制御装置)によって確保され、常に監視を続ける必要がある従来のシステムと代わる最新の技術が活用されています。信号とブレーキシステムが組み合わさった信号は列車内に設置されています。列車の制御は、速度が信号によって示される速度よりも速いか遅いかに応じて自動的に行われています。
円滑な列車の流れを維持するために、東京の総合指令所に列車位置を示すパネルが設置されています。また、列車無線電話システムにより、路線全体の列車に個別にまたは同時に必要な指示を連絡することができます。
各列車の運転手は自分の列車番号を総合指令所に登録し、自動ルート設定装置を使用して、自動的に終点まで決められたルートを走行します。

5. 安全対策
高速軌道検測車と高速電気試験車を使用して、軌道や電気設備のさまざまな検査を迅速かつ正確に行なっています。
暴風雨災害対策として、路線全体の重要な30箇所に風速計が設置されています。風速が毎秒20メートルまたは時速45マイルを超えると、東京総合指令所に警報信号が送信されます。
非常停止スイッチは、線路沿いに非常に短い間隔で設置されています。緊急時には誰でもこれらのスイッチのボタンを押すことができます。これにより、被災地での給電が遮断され、列車は自動的に停止します。
上記に加えて、地震計が変電所に設置されています。これらは震度が一定値を超えた場合に、関係する地域への電流を奇数にカットするように設計されています。

6.レール
レールは新しい断面形状を持ちます。高速走行に耐え、安全性を維持するのに十分な強度を確保するために、1メートルあたり53.3 kg または1ヤードあたり117ポンドが採用されました。レールは1,500メートル(約1マイル)の長さに溶接されており、レールの接合部をなくし、乗り心地を向上させています。レールを枕木に固定するために、二重弾性システムが使用されています。列車が揺れることなく210 km/h (132mph) で通過するために、新開発のノーズ可動方式の分岐器も使用されています。

とこんな感じで外国人向けに新幹線について紹介されています。現在では Bullet train や Shinkansen と呼ばれる新幹線ですが、この頃はまだ「新東海道線」と呼ばれていたのが分かりますね。

内容はこうなっています。

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まだ運転士が2人で乗務していた頃なので、三島通過後の交代の時の音声が入っており、今からするとかなり貴重な資料になっています。
「車内アナウンス」の箇所に肝心の黛敏郎作曲のチャイムが入っており、チャイムの後に車掌の肉声放送と英語の自動放送が流れます。自動放送がいつから採用されたのか明確には分からないのですが、1970年1月には既に使われているのが分かりました。大阪万博対策でしょうか?

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収録日に至るまでの新幹線の歴史も記載されています。

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レコードはいわゆる東芝赤盤。クリアレッドの綺麗な盤です。

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趣味的にはなんの変化もないのでただでさえ記録されにくい0系オンリー時代の東海道新幹線。ものすごく貴重な音源を残してくれた東芝国鉄に感謝です。