倉庫労働誌

春先、金銭面でにっちもさっちも行かなくなったのでイヤイヤ始めた派遣労働。「軽作業」と称されるものが何も軽くない事は以前やっていたスーパーの清掃バイトで理解していたが、それ以上に「軽」の字が似つかわしくない軽作業があるんだとこの派遣労働で思い知った。

備忘録としてこの派遣労働の事について記しておく。二度とこのような仕事はしたくないので。もう少し考えてバイトを探すべきだった。浅はかだった。



スタッフ登録の話。
某所にある派遣会社の登録説明会に参加した。その説明に出てきた社員がもう凄かった。ワ◯ミの店員インタビューのアレみたいに目の輝きを失っているのに喋りだけは異様にハキハキしていた。脳髄いじられてんじゃないのか。
一通り説明を済ませた後は謎の面談を設けられた。今後の労働の際についての注意点とかを聞かされただけだった気がする。この人、俺の目を見て話してるんだろうけどただただ目がカッ開いてるだけで軽く恐怖を感じた。エラい会社に登録しちゃったんじゃないかなと思った。



早速翌日、都内の埋立地にあるA社に飛ばされた。飲料の仕分けとかそんな内容で、俗に聞く倉庫バイトの定番とも言えるものだった。
まず現場について驚いた。丸っ切り覇気のない従業員に軽く説明を受け、作業着に着替えて安全靴を履いて待ってろと言われたので言われるがまま休憩室で待機していた。
安全靴に穴が開いていて靴底もベロンベロンになっていた。何が安全靴じゃボケ。俺がさっきまで履いてた靴の方がよっぽど安全じゃオタンコナス。おまけにめっちゃ臭かった。ここまで出勤から10分。先が思いやられる。

現場は薄汚い倉庫。バカ重い瓶飲料のダースをとにかくパレットに積み上げるという作業をした。一緒に組まされたおじさんが一生ムスッとした顔をしていて印象が悪かった。なんか怒られてる気がしたのでせめて無表情でいてほしかったな。ちなみにこのおじさんは退勤までずっとムスッとしていたので顔がそういう作りなんだろう。
2時間この作業をやった。まだ寒いくらいの気温だというにに汗だくになり、これじゃ倒れるわと思ったのだが周囲の誰もが水分を摂る様子を見せなかったのでちょっと心配になった。今どき学校でも体育の授業中に水分補給が許されていると言うのに。

昼休みの休憩室、昼食持参の派遣労働者と弁当支給の社員で格差を感じてしまい、なんかイヤな気分になった。みんな疲れているからなんだと思うが、休憩が明けるまでの60分間その場にいる一切の人が一言も言葉を発さずただただ時が過ぎるのを待っていたのが不気味だった。

午後は検品作業。納品されてきた飲料のダース箱を開封して目視でチェックし、異常がなければ再び封を閉じるという流れだった。幸い自分は再度封をされた箱をコンベアに流す役を任されたので、そこまで大変ではなかった。
ただひたすら同じ作業を繰り返す事と、10人くらいいるのに雑談も何もせず無言のまま作業をしているのが恐怖だった。別に和気藹々と仕事をしろとは言わないけど、いつもこうなのか?ほんの数時間やっただけでそろそろ気がお狂いになりますわよ状態になったので社員として働いてる人に脱帽最敬礼。
というか目視の検品を倉庫に委託するくらいなら製造元でやっとけよと思うのは俺だけか。箱詰め前に機械通してスキャンすれば不良品弾けらんないか?まぁ機械のコストを考えると人間にやらせた方が安上がりなんだろうな。
雇用ってこうして生まれてるんだな。

退勤の時間、派遣労働者は登録先の会社から配られる紙に勤務先と勤務時間を記入せねばならず、これにエラく人権の無さを感じた。どうしてこんな事を電子化できないんだろう。あまりの非効率さにモヤッとした。

この日は全身筋肉痛になった。
ここは二度とごめんだな。



B社の話。
A社の翌日。筋肉痛の体に鞭を打ちながらやってきたのは埋立地にあるB社。A社と比べると建物も綺麗で、環境としては良かったと思う。ま、点数を付けるとすると0点満点中0点なんですが。
出勤したはいいものの、何の説明も受けられず勤務先が建物のどこにあるのかすら教えてもらえなかった。はぁ、こういう世界なんだな、倉庫業務って。不親切にもほどがある。なんか知らんけど今日は怒られる気がしてきた。
仕事はいわゆるピッキング。お、足が犠牲になるけどこりゃ簡単だな、と思ったが、責任者の説明があんまりにもヘタすぎて仕事内容をいまいち把握出来なかった。他の人に聞いてとりあえず理解できたのでセーフ。
トップがこんな人だから労働者がやめてって代わる代わる新人が来るんだろうなと、なんとなく察した。
3時間ほどピッキングを続けた。取り扱っている品物が自分とは縁がなくていまいち想像が付かなかった製品ばかりだったので、ピッキングするってことはそれだけ発注が来てるということなんだなと思いながらやっていた。
B社の良くないところは休憩時間が曖昧なところだった。言われるがまま作業をしていたら急に従業員が引き上げ始め、そこで初めて昼休みだと気づいた。ちなみに求人に載っていた休憩時間から25分遅れていた。
休憩明けも同様だった。休憩室にいる人がみんな無言で持ち場に返って行く。「何時まで」とか言われていないので、誰かが立ち上がった時間を休憩終了と判断しているっぽい。眉間に皺が寄った。

午後は段ボールの組み立て作業。ウヘー、よく聞く箱を作る作業ってマジであんねんな。40代半ばっぽい白髪混じりのオサーンと組まされた。就職氷河期の産物なんだろうなと思ってちょっと悲しくなった。
世の中には真面目に取り組むべき仕事とそうでない仕事があり、この段ボール組み立ては主観で言えば真面目に取り組む必要がない仕事だ。倉庫間でしかやりとりされない箱らしく、次の倉庫で別の製品と組み合わされるタイプの小物用の箱だった。たぶん店舗にまでは届かない、ましてや客は目にすることもない、そういう立場にある段ボールの箱である。んじゃあ適当にやっても問題ないか、と思ったのが後の祭りだった。

オサーン「おいてめぇ!」

なんか急に怒られた。マジで何もしてないのに。

オサーン「箱作るスピードが俺よりおせーんだよ!やる気がねぇなら帰れよ!」

シンプルに中身がないことを倉庫内に響くボリュームで言われてポカンとした。餡子が入っていない最中並みに中身がない。え、何。何に怒っとんのこいつ。
箱の組み立てる数には別にノルマなんてなく、責任者が「ここに出てるやつを組み立てられるだけやっとけ」と言っていたので素直に応じていただけである。
それなのに、なんか自分比で組み立ての数が少なかったのがこのオサーンにとっては不満だったらしい。
実際やる気無いし帰ろうかなと思ったが、金のためなので怒号を無視して作業に取り組んだ。作業用のカッターが机の上にあるので正直いつ刺されるかヒヤヒヤしていた。
おそらく、こういった低レベルな仕事にしか従事したことがない人間にとってはこれを天職だと思っていて、非常にしょうもない内容に何かしらのプライドを持っているんだと思った。じゃなきゃ段ボールの組み立てるスピードが遅いとかで怒らんもんな。

この労働先じゃやってけねぇなと思い、次の労働先は別の会社を希望した。



C社の話。
また埋立地です。交通費かかるくせに上限500円しか支給しねぇんだよなこういうとこ。アホか。
C社は前2社と比べるとかなり楽チンだった。というのも人を多く募集してしまったらしく、現場の体制が整うまで業務開始が40分も遅れた。
40分ボケッとしてるだけで金が稼げてるんだなと思うとちょっとワクワクした。

現場に入るとピッキングから始めることとなったが、労働者の人数に対して出荷量が少なすぎたせいで一瞬で終わってしまった。
10分くらい働いてまた休憩室に押し戻された。いいのかよこれ。

20分後に再び現場へ。出荷する方面ごとに商品を仕分ける作業をやらされた。面白みはなかったけどちょっと楽しいと感じた。でも二度とやらん。
出荷数が溜まっていたらしく、この作業は数時間に及んだ。

この作業が済んだ後、人数が多過ぎるので倉庫全体を掃除してほしいと言われて学生時代の掃除の時間ばりに長箒を持った。懐かしい気持ちになれた。

C社は楽だった。書き殴りながら何かしらの文句を言おうと思っていたが出てこなかったな。



再び、A社。
できれば二度と来たくなったが、人手不足だから出てほしいと言われて渋々出勤した。人手不足になる理由を体感しながらも応じてしまう自分がイヤだった。
土曜日だったので本来の業務はなく、簡単に言うと機械化した方が早いようなことを手作業をやらされた。嫌だったな〜。
8時間同じ作業をやるのは苦痛である。





4日間倉庫で働いたが、自分には向いていないと思い派遣会社を退職した。
倉庫に従事する人は人間性に難がある人が多く、派遣で働く人もまた然りだと痛く実感できた4日間だった。
オフィスワーカーか在宅勤務の人間になるぞと強く誓うきっかけになったので、社会経験としては良かったかもしれない。
二度とやりません。