たばこの本いろいろ

ショートピースの記念・非売品デザイン箱を集め始めて約3年。徐々に他の銘柄にも手を出してきて収拾がつかない収集家になりつつあります。
現物をちまちま集めないと全貌が掴めない厄介な代物なのかなと思っていましたが、やはりコレクターズアイテムとして発売当時から既に注目されていたようで、今までどのようなものが発売されたのかが一目で分かる本がいくつか出版されていることを発見しましたので、そういった本をいくつか集めてみました。
記念・意匠替えたばこという文化がほとんど無くなってしまった現在ではそもそも遡りにくい情報なので、このように写真集の形で本にまとめられているのはかなり資料価値が高いものだと思います。

特別意匠たばこ包装集

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日本専売公社内で執務参考用に作られたデザイン集を社団法人専売事業協会が書籍化して社内用デザイン集の再販という形で1969年9月に発売された「特別意匠たばこ包装集」という本。タイトルの通り、通常のデザインのパッケージではなく記念品として作られたものだけを発売年度順に集めたものです。
序文には記念たばこがいかにして誕生・発展して昭和44年現在に至ったかが書かれており、デザインとしての重要性や資料価値について考察されています。
国家・行政のイベント開催時や何かしらの記念日などに発売される「記念たばこ」(大正4年度〜昭和15年度・昭和23〜43年度)、挙国一致・皇軍慰問用に戦中の昭和12〜13年度に作られたものと戦後に発売された通常品の地色や絵柄を変えたものと観光地限定で発売された「意匠替えたばこ」、そして「広告つきたばこ」が全てカラー写真で掲載されているとんでもない優れものです。

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朝日、敷島、チェリー(初代)などの戦前の記念たばこ。

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戦後の記念たばこ。「こだま号」デビュー記念のピースや、ソ連輸出用の「ハイライト」、地色を変えた「五色ピース」が集まったナイスなページ。

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日本万国博覧会協賛の広告つきたばこ。などなど。
カラーページはパッケージの前面だけを写しているため、補完としてモノクロページに展開写真が掲載されています。

巻末には発売年や発売場所、発売個数を一覧にした表もあり、非常に良い資料集です。

前述の通り元々は日本専売公社の内部で使うための資料として出版されたものですが、なんらかのルートでそれを知った者、貴重な製品群のデザイン集として着目した人、展覧会「たばこ美術展」で専売公社用のものが展示され読んだ者などが多くいた結果、一般書籍として販売してくれという声が殺到したために発売された面白い経緯を持つ本です。このような本の一般販売を望む人がいて実際に出てしまうのも、当時の喫煙率の高さを物語っているように思えます。

記念・観光たばこデザイン 第1集

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特別意匠たばこ包装集」の存在を後から知った人や、「たばこ友の会」発足によるたばこパッケージ収集家の増加を受けて、タイトルを「記念・観光たばこデザイン」に改題して1972年に再販されたもの。再販なので中身はほとんど同じです。

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凡例
左:記念・観光たばこデザイン 第1集
右:特別意匠たばこ包装集

再販にあたり序文の追加などはありますが、一番大きな違いは巻末の総目録に記載されていた発売個数の単位が「千」から「万」に変更された点。そもそも一つ一つの発売数が多いので、単位の変更は良い判断だったかもしれません。

記念・観光たばこデザイン 第2集

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記念・観光たばこは「特別意匠たばこ包装集」発売以後も引き続き生産され、バリエーションも日を追うごとに増えていきました。「記念・観光たばこデザイン 第2集」では、第1集にも掲載されているものを一部含めた上で、昭和44年度から46年度にかけて発売されたものを掲載しています。大正4年度から昭和43年度までを一冊にまとめていた第1集と比べるとものすごく短期間のものですが、それだけで1冊出来てしまうというあたりに記念・観光たばこの生産が旺盛だったことが伺えます。

イラストが主流だった昭和45年頃までと、昭和46年以降の写真を用いたパッケージが増えてきた境界を見ることが出来るのもこの本の存在意義を高めています。
また、ハイライトやチェリー、セブンスター、ロングピースなどのフィルター付きたばこが両切りたばこの人気を凌いだことによって、本書に掲載されているたばこが全てフィルター付きのものになっているところも時代の流れを読み取ることができる貴重な資料と言えます。

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昭和44年から45年にかけてはまだまだイラストが主流です。やけにビビッドに塗られた大阪万博デザインのルナ、セブンスター、ホープが目を引きます。

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ハイライトは通常デザインを元にイラストを追加したようなものが多く、ピースは自由気ままにデザインされているものが多いなど、一言に観光たばこと言っても銘柄別のスタイルがあるのも眺めていて面白いところです。

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昭和46年に入ると観光地の写真を採用したものが急増し、外箱付き2個入りという販売形態を利用して繋げると1つの絵になるものも出てきたようです。このページでは左上の「東京」がそれに当たります。

1974年には第3集が発売されているようですが、なかなか手に入らないので入手次第追記したいと思います。

日本のたばこデザイン 1904 1972

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先の3つはあくまでも非通常デザインの写真集。じゃあ通常デザインの方もあったの?とお思いの方もいらっしゃると思いますが(いるのか?)、ちゃんと発売されています。
1972年3月10日に限定2000部が発行された「日本のたばこデザイン」という、そのままの表題の本です。各銘柄におけるデザインの変遷を見ることができます。

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1906年から2019年まで発売されていた超ロングセラー「ゴールデンバット」は当時既に66年の歴史を持つ銘柄でした。昭和15年から24年にかけて「金鵄(きんし)」に改称されていた時期を含めて多彩なバリエーションがあります。
パッケージを作るのに精一杯でデザインどころじゃなかったものもあり、必需品ながら削るところは削らなければならない戦争の暗い影もたばこから見出すことができます。

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封緘紙のページなんてのもあります。単に箱を留めている封緘紙と言っても色々なデザインが込められているのです。

巻末には銘柄ごとのデザインの話も掲載されており、非常に興味深い内容です。たばこ、侮れません。

'73 記念たばこカタログ

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「たばこ友の会」に入会すると購読できる月刊誌「煙趣マガジン」の別冊として1973年7月20日に発行された「'73 記念たばこカタログ」。上の4冊はあくまでも資料集、社内向けのものを一般に販売したものですが、こちらはマニア向けのカタログです。オールモノクロ、写真は全て展開図となっています。付録として誌面上で行われた入札会の結果が封入されていました。たばこパッケージの入札会って面白いですね。自分が言うのもなんですが、マニアの熱量ってすごいです。

表題の通り、「記念・観光たばこデザイン」を記念品と後述の観光品で分けてあります。

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中身はこんな感じ。「特別意匠たばこ包装集」のモノクロページを再編したものと言えますね。
でもこういうのはカラーで見てこそやんけ!と思った方、大丈夫です。ご安心ください。

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カラーで見たければ買えとのことです。

'73 観光たばこカタログ

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そしてこちらが観光たばこの方。広告付きもここに含まれています。

こういった広告があるように、当時はたばこのパッケージ収集がわりとメジャーな趣味としての地位を確立していたことが伺えます。たばこの排除が叫ばれる今では考えられないことですし、面白いですね。



ちなみに先日、大阪の万博記念公園に行った際にEXPO'70パビリオンで開かれていた企画展「プレイバック1970」を見てきたのですが、

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1970年頃のブームの一つとしてたばこパッケージの収集が展示されていました。日本万国博覧会協賛のハイライトが売られていたように、万博とたばこは切っても切れない関係にあるのでこういう展示はあって当然だと思いますが、50年遅れでたばこの収集に手を出したアホな若者からすると、このやってコレクターが収集していた現物を見られるというのは軽い感動モンでした。

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太陽の塔も、このハイライトが無ければ建っていなかったかもしれません。

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万博の写真を見ていると一際目立つ虹色の建物がありますが、これは「虹の塔」と言って日本専売公社のパビリオンでした。以上、余談。

【たばこ】東北本線全線複線・電化完成記念のハイライト

日本たばこ産業(JT)の前身、日本専売公社は記念品のたばこの発売に力を入れており、とにかくイベントごとがあれば何かしら出していました。当時の喫煙率が高かったこともあり、多くの大人が手に取るたばこは広告媒体や観光地の記念品にもなっていました。

三公社五現業」との言葉があったように、国鉄・専売公社・電電公社は流通や通信以外にもこういった記念品でも連携することがあり、1960年代には鉄道開通90周年記念や電信90年・電話70年記念のショートピースが発売されたりもしています。

1960年に発売されたフィルター付きのたばこ「ハイライト」は発売当初から大人気銘柄となり、それまでフィルター無しのショートピースで発売されることが多かった記念品や特別デザインものも1966年以降はほとんどハイライトで発売されるようになります。

さてさて、1968年には鉄道ファンならだいだいの人が知っているであろう国鉄の一大イベントが起こります。1968年10月1日の白紙ダイヤ改正ヨンサントオ」です。

幹線の複線電化が順次完成し、特別急行列車・急行列車の増発、気動車やSL客車列車の電車化による所要時間の短縮などなど、急に便利になったダイヤ改正でした。

ヨンサントオの少し前、8月22日に東北本線上野〜青森駅間の全線で複線電化工事が完成し、9月9日から583系はつかり」「はくつる」がデビューしています。これにより東京〜青森は8時間半で結ばれるようになりました。

これを記念して9月28日に発売されたハイライトを紹介します。発売個数は100万個、発売場所は宮城・岩手・青森の各県。

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オリジナルデザインのハイライトが2個入ったセットで発売されていたようです。外箱はデビューしたての583系はつかりの写真が載ったデザイン、内箱にはデフォルメされた東北地方に583系とりんご狩りのイラストというデザインです。
ハイライトといえば青色なので、赤が主体となったデザインはちょっと新鮮です。
JNRのロゴが入っているのが渋い!

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側面には記念の内容の記載があります。これは他の記念品と同様。

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外箱裏面には寝台モードと座席モードでくつろぐ微妙な表情のチャンネー。寝台モードの方は寝起きにも見えます。

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側面と蓋には「観光は東北へ」「東京・仙台3時間50分」「東京・盛岡6時間20分」と印刷が入っています。

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これはどうでもいいような事なんですが、現行のハイライトが当時の箱にスッポリ入ります。昔より細くなっているんですね。

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583系が引退して早いもので4年半経ちます。こんな記事を書く事になるならもうちょっと真剣に撮っておけばよかったなと後悔。たまたま尾久で留置されているのを見かけたのをクソザコズームで撮った写真しかありません...

こういう記念たばこはおそらく当時の駅の売店や駅前のたばこ屋で売られていたものと思います。これを買って583系に乗り込み、煙を燻らせながら電車旅をしていた人がいたんだろうなぁと思うと、ちょっと羨ましくなりますね。

国鉄の負債返済のために協力してる喫煙者なので、時代に逆行してるのは百も承知ですがJRとJTがコラボした記念たばこが発売されてくれたらな〜と思います。まぁ、今時無いか。

ショートピースの箱を展示する博物館的なサイトを作ってみた

一昨年からショートピースの空き箱をちまちまと集めているのですが、どれもこれもあまり詳細が分からないし、調べても全貌すら不明なので、なんなら自分でまとめたページを作ってしまおうと思いまして。

parlorfleur-pm.com

作りました。プラレール資料館の別館扱いです。

1946年から1966年までに発売された特別仕様の箱や、贈呈品・非売品の箱を発売年順に並べてみました。

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こういった地色を変えた「五色ピース」や

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鉄オタもこれにはニッコリ、鉄道系のデザイン

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神社仏閣の復興記念や行事記念系

などなど、134点(記事投稿時点)を展示しています。

もう50年以上前に展開が終わっているので、贈呈品・非売品なんかは本当に情報が残っていないのですが、一般流通品は本にまとめてあるのを見つけたので速攻で探して入手。

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社団法人専売事業協会が発売した特別デザインパッケージの写真・資料集「特別意匠たばこデザイン(1969)」と、それを再編集・再販した「記念・観光たばこデザイン 第1集・第2集(1969)」、そして今まで発売された箱をまとめた「日本のたばこデザイン 1904〜1972」の4冊です。

「特別意匠たばこデザイン」には掲載品の発売日、発売場所、生産数まで記してあるので、年の記載がない箱の詳細まで分かって非常に便利です。

特別デザインのものはピース以外にもあり、非常に膨大なのでそこまでは手を出さないようにしたいと思います(フラグ)

たばこが身近な存在だった頃のデザインを体感してみてくださいまし。

「日本のトレードマークとロゴタイプ」という本

ある日、フォロワーのモリシマさんに「企業ロゴが好きならこんなオススメな本があるんですが...」と言われた本、それが「日本のトレードマークとロゴタイプ」という資料集。


1973年に発売された本なので初版は入手困難気味ですが、2018年に再販したものが比較的簡単に入手できるのでそれを買ってみました。

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昭和のデカい本特有のボール紙ケース入り。復刻版ですがこういうところまでしっかりしてると嬉しいものです。

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日本の企業ロゴや社内フォントを一度にまとめて眺められるように、というコンセプトで作られたこの本。1700社ほどに連絡して返事が返ってきた700社のロゴマークやブランドマークがぎっしり詰まってます。

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東芝の旧ロゴだってこの通り。

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ビクター...

50年近く前の内容をそのまま復刻しているので、今は無くなった企業や使用を取りやめたロゴが盛り沢山。眺めてると無限に時間が過ぎて行きます。

6050円とちょっとお高めですが、こういったニッチな本は気づいたら入手困難になりがちなので、気になる方はいかがでしょうか。

黛敏郎の新幹線車内チャイム(黛チャイム)が収録されたレコードを発見

東海道新幹線には短期間だけ使われた幻のチャイムがあるが、音源が見つかっていないのでどんな曲だったのか不明である」

みたいな記述をどこかで見かけたのは10年以上前。年数回程度であるものの東海道新幹線ユーザーなので、過去のチャイムというものに俄然興味が湧きました。

さてどこかで聴けないものか...と思っていたところの2017年夏。たまたま日車夢工房のサイトを見ていた時に「スーパーディスプレーモデル0系新幹線電車」という模型が目に入りました。2014年に発売されたものです。

「台座に0系で使用されていた車内チャイムを収録!」と説明にあり、チャイムも視聴できるそうなのでなんとな〜く再生してビックリ、例の幻のチャイムが入っているではないですか。

※ツイート内のリンクは切れてます

長く探してきた音源をあっさり見つけてしまい、あまりにもビックリしたので思わずツイートしたら軽く反響がありました。というか発売から3年弱広まってなかったのか。

で、どうやらこのツイートを発端としてこの音源を取り上げた動画がYouTubeに続々アップされるようになり、知名度も上がったようです。

ちなみに工芸品として作られたこの曲のオルゴールはたまにオークションに出されているようですが、どれも高値が付いていておいそれと聴けるものではありませんでした。

「黛チャイム」と呼ばれるようになり、聴く機会も増えたこのチャイム。

2019年に発売された「黛敏郎 電子音楽作品集」にはボーナストラックとして復元演奏が収録されたり。

nayuho.hatenablog.jp

どういうわけか2020年には復元楽譜が発売されたりと、幻だったチャイムも幻からは縁遠くなってしまいました。

さて調べてみると、先の模型に収録されている黛チャイムは「偶然録音されたレコードから発見されたもの」らしく、それ以外の情報が無かったので、個人が録音したものから見つかったのかな〜と思いそれ以上は追求せず。

ある時「そういえば効果音のレコードとかあるよな」とふと思い、調べてみると新幹線の音を収録したレコードが存在しているのを発見。レコードは全てで3枚見つかり、それぞれ録音年が1966年・1970年・1976年となっていました。

黛チャイムの採用期間は1968〜72年なので、収録されているなら1970年のレコードのはず。と、ここまで推測して当のレコードを探してみても全く出回っておらず、入手する機会が訪れるまで足掛け3年かかりました。


前置きが長くなりました。

「スーパーディスプレーモデル0系新幹線電車」でも採用された音源が入っているレコードを紹介します。

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東芝音楽工業の「レールウェイ・ダイナミックス」レーベルから発売されたレコード「THE SUPER EXPRESS HIKARI THE NEW TOKAIDO LINE 新幹線 ひかり 19A (TK-4066)」です。

1970年1月23日(金)、東京発8時50分・新大阪着12時10分のひかり19号の走行音を録音したものです。発車、通過、停車、車内アナウンスなどを抜粋した内容になっています。

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ジャケットを開いたところ。ナイスサイドビュー!

前回同様、解説文を引用します。東海道新幹線について細かく書かれています。

東海道新幹線は39年10月1日に営業開始して以来満5年を経過し、その間に列車が走った距離は44年8月6日に1億kmを越え、乗客数は44年11月2日で2億5千万人を越えた。
万国博覧会を迎えて、車輌数は1,140両に、編成数は85編成に増備され、"ひかり"は16両、"こだま"は12両編成で、1日約200本の列車が運転されている。
新幹線の特長は何といっても210km/hという高速運転にあるが、高速で安全な運転ができるよう線路、車両の構造や保安システムに高度な技術がとり入れられている。
踏切が1箇所もないことは既にご承知の通りだが、線路は標準軌間(1,435mm)で強度の高い50kgレールとコンクリート枕木を使い、1.5kmのロング・レールになっている。ロング・レールの継目には伸縮継目を、ポイントにはノーズ可動方式を使ってレールに切れ目ができないようにしてあるので、鉄道につきものの継目音がないが、駅付近の低速でしか走らない箇所には継目のあるレールを使っており、その音を聞く事ができる。
架線はパンタグラフが離線しないようにコンパウンドカテナリー方式で、3万ボルトの交流を電車に供給する。パンタグラフは極めて小形に作られていて、追惰性が良く背の高い碍子の上に取り付けられているが、200km/hを超えて走行すると、この碍子が風を切るピーという独特の音が聞える。
電車は全部電動車で、1両に185kwの主電動機を4個持ち、2両単位になっているので、パンタグラフも2両に1個取付けられている。
電車を起動させるときは運転台にある主幹制御器(コントローラ)のノッチを入れると、一定の加速力で自動的に指示されたノッチまで進む。運転士は線路の条件や時間を考えてこのノッチを調節するが、電車の速度が定められた信号の速度以上になれば自動的にブレーキがかかって、その速度以下に下げる。
自動的にブレーキをかける装置はATC(自動列車制御装置)といい、レールに流れる信号電流を車上の装置で受信し、運転台に最高速度を示す信号が表示される。
レールは約3kmの区間ごとに電気的に絶縁されていて、列車がある区間に停車した場合、その区間(信号)は0信号、次の区間は30信号、次が160信号、次が210信号が現示されるようになっている。電車が停止するときは160信号を受信し、ブレーキが自動的にかかって、160km/h以下になるとゆるむ、次の区間に入ると30信号が出て同じようにブレーキがかかり、30km/h以下になったときに確認ボタンを押すとブレーキがゆるむ、駅に停車する場合はポイントの部分を70km/hで通過しなければならないので、70信号が間に入る。また、東京付近や一部徐行区間に110信号を使っている区間がある。
30km/h以下の速度になってからは、運転士が手動でブレーキを扱って電車を停止させる。
電車のブレーキは高速の間は発電ブレーキを使い、約50km/h以下になると空気ブレーキに切替って、車輪の両側にあるディスクブレーキをかける。もちろん高速から空気ブレーキだけで停車することもできるし、停電や故障の場合は0信号が現示されて電車はブレーキがかかって直ちに停止する。
運転台にはATC信号の現示される速度計のほか、機器の動作状態を示す表示灯や空気圧力計、電圧計があり、運転士は、ATC信号によって確実にブレーキがかかったり、ゆるんだりしているかどうか、ドアの開閉に異常がないかどうかを確認しながら運転をしている。
"ひかり"は東京−新大阪間を3時間10分、"こだま"は4時間ないし4時間10分で運転しており、運転士は時刻表通りに運転するよう速度を調節する。
新幹線は速度が高いので雪や強風など一寸でも異常があれば徐行運転を行なって安全を確認するようにしているので、徐行によっておくれを生ずることが時々ある。
高速運転の問題のひとつにトンネル内の気圧変化があるが、200km/hでトンネルに突入すると空気圧力が変化して耳が痛くなるので、自動的に気密装置を動作させて客室内の圧力が余り変化しないようになっている。運転台では、トンネル内で電車が風を切る音がよく聞える。
新幹線電車は"音"で聞く限り変化にとぼしいが、この録音から運転台のATC装置の動作や運転士の仕事ぶりの一端を理解して頂ければ幸いと思う。
(筆者は日本国有鉄道東海道新幹線支社車両課長)

ひかりが万博輸送を控えて16両編成化された頃の新幹線が詳細に書かれており、結構貴重な資料かと思います。

このレコードは大阪万博に来る外国人のお土産としての需要も見込んでいたらしく、英文で新幹線を紹介しているページもあります。こちらも引用します。

THE NEW TOKAIDO LINE
JAPANESE NATIONAL RAILWAYS

1. Necessity for the New Tokaido Line
The New Tokaido Line (NTL) - a double track, standard gauge railway - was born out of imperative necessity, with a view to eliminating the bottleneck on the Tokaido Line and making the "artery of japan" ever capable of serving the future economic expansion of this country. The new line was completed after five and half years and put into service on 1st October 1964.

2. Stations
There are a total of 13 stations on the New Tokaido Line, including the two terminals of Tokyo and Shin-Osaka. Most of the stations are located adjacent to the stations on the old line and have convenient facilities for interchange of passengers between the new and the old line. Various equipment and facilities of the new stations, such as ticket windows, gates or escalators, are all made to conform to a uniform design.

3. Transit Time
The distance of 515km (320 mi.) is covered in 3 hours and 10 minutes by the Super Express HIKARI (meaning LIGHT) which stops only at Nagoya and Kyoto, and in 4 hours by the Limited Express KODAMA (meaning ECHO) which stops at all 11 intermediate stations.

4. Train Operation
Safety and efficiency of train operation are guaranteed by A.T.C. (Automatic Train Control) and C.T.C. (Centralized Traffic Control) devices, for which the latest techniques are fully utilized. Instead of the conventional system where it is required to keep a constant watch on wayside. signals, cab signals which are combined with the brake system are installed on trains. Breaks are made of work automatically, applied or released according to whether the train speed is higher or lower than the speed indicated by the signal.
To maintain a smooth and efficient flow or traffic on the line, an indication panel on which the position of train dis patchers' room of the General Control Center in Tokyo. By means of the train radio telephone system, trains on the entire line can be contacted individually or simultaneously for necessary instructions.
The motorman on each train registers his train number with the Control Center, and by means of the automatic route-setting device, his train is guided automatically over the right track till the end of his trip.

5. Safety Measures
A high-speed track inspection car and a high-speed electric testing train are used to perform various inspections speedily and accurately on track and electric facilities.
Against storm disasters, anemometers are installed at 30 key points over the entire line. In case wind velocity exceeds 20 meters per seconds or 45 mph, alarm signal is sent to the control center in Tokyo.
Emergency switches are equipped at very short intervals alongside the track. In case of emergency, anyone can push the button of these switches. With this the feeding current is cut off in the affected area, and trains are automatically brought to a stop.
In addition to the above, seismographs are installed at substations. They are so designed as to cut odd the current in the area concerned, in the event that earthquake exceed a certain limit of severity.

6. Rail
A rail having a new cross-sections. 53.3 kg per meter or 117 lbs per yard, was adopted to provide strength sufficient to withstand high speeds and to maintain safety. Rails are welded into lengths of 1,500 m (about 1 mile) to eliminate rail joints and to improve riding quality. A double-elastic system is used to fasten the rail to the sleeper. In order for trains to pass over at 210km/h (132mph) without jolting, a new movable-nose turnout is also used.

以下、翻訳。

東海道線
日本国有鉄道

1. 新東海道線の必然性
東海道線(NTL)- 複線、標準軌- は、東海道線ボトルネックの解消と、この国の将来の経済成長に対応できる「日本の動脈」を実現することを目的として、必然的に誕生しました。この新しい路線は完成までに5年半を要し、1964年10月1日に営業を開始しました。

2. 駅
東海道線には、東京と新大阪の2つのターミナルを含めて計13の駅があります。ほとんどの駅は旧線の駅に隣接しており、新旧線の乗客の乗り換えに便利な設備が整っています。改札口、出入口、エスカレーターなど、新駅の各種設備はすべて統一されたデザインになっています。

3. 所要時間
515km (320マイル) の距離は、名古屋と京都にのみ停車する超特急ひかり(光を意味する)で3時間10分、11の途中駅全てに停まる特急こだま(エコーを意味する)で4時間をかけて結ばれています。

4. 列車の運行
列車運行の安全性と効率性はA.T.C.(自動列車制御装置)およびC.T.C. (列車集中制御装置)によって確保され、常に監視を続ける必要がある従来のシステムと代わる最新の技術が活用されています。信号とブレーキシステムが組み合わさった信号は列車内に設置されています。列車の制御は、速度が信号によって示される速度よりも速いか遅いかに応じて自動的に行われています。
円滑な列車の流れを維持するために、東京の総合指令所に列車位置を示すパネルが設置されています。また、列車無線電話システムにより、路線全体の列車に個別にまたは同時に必要な指示を連絡することができます。
各列車の運転手は自分の列車番号を総合指令所に登録し、自動ルート設定装置を使用して、自動的に終点まで決められたルートを走行します。

5. 安全対策
高速軌道検測車と高速電気試験車を使用して、軌道や電気設備のさまざまな検査を迅速かつ正確に行なっています。
暴風雨災害対策として、路線全体の重要な30箇所に風速計が設置されています。風速が毎秒20メートルまたは時速45マイルを超えると、東京総合指令所に警報信号が送信されます。
非常停止スイッチは、線路沿いに非常に短い間隔で設置されています。緊急時には誰でもこれらのスイッチのボタンを押すことができます。これにより、被災地での給電が遮断され、列車は自動的に停止します。
上記に加えて、地震計が変電所に設置されています。これらは震度が一定値を超えた場合に、関係する地域への電流を奇数にカットするように設計されています。

6.レール
レールは新しい断面形状を持ちます。高速走行に耐え、安全性を維持するのに十分な強度を確保するために、1メートルあたり53.3 kg または1ヤードあたり117ポンドが採用されました。レールは1,500メートル(約1マイル)の長さに溶接されており、レールの接合部をなくし、乗り心地を向上させています。レールを枕木に固定するために、二重弾性システムが使用されています。列車が揺れることなく210 km/h (132mph) で通過するために、新開発のノーズ可動方式の分岐器も使用されています。

とこんな感じで外国人向けに新幹線について紹介されています。現在では Bullet train や Shinkansen と呼ばれる新幹線ですが、この頃はまだ「新東海道線」と呼ばれていたのが分かりますね。

内容はこうなっています。

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まだ運転士が2人で乗務していた頃なので、三島通過後の交代の時の音声が入っており、今からするとかなり貴重な資料になっています。
「車内アナウンス」の箇所に肝心の黛敏郎作曲のチャイムが入っており、チャイムの後に車掌の肉声放送と英語の自動放送が流れます。自動放送がいつから採用されたのか明確には分からないのですが、1970年1月には既に使われているのが分かりました。大阪万博対策でしょうか?

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収録日に至るまでの新幹線の歴史も記載されています。

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レコードはいわゆる東芝赤盤。クリアレッドの綺麗な盤です。

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趣味的にはなんの変化もないのでただでさえ記録されにくい0系オンリー時代の東海道新幹線。ものすごく貴重な音源を残してくれた東芝国鉄に感謝です。

【プラレール】「E2北陸新幹線」と「E2新幹線あさま」

1997年の長野行北陸新幹線開業に備えて1995年に登場したE2系。翌1996年にプラレールで「E2北陸新幹線」として製品化されました。

1997年4月に北陸新幹線の列車愛称が「あさま」に決定し、1998年に商品名が「E2新幹線あさま」に変わりました。

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というわけで両方揃えたので比較してみます。商品名が変わっただけで同じ製品なんじゃないかなぁと思いつつも、どうせ写真を撮るなら並べたいので開封

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手前が「E2新幹線あさま」で奥が「E2北陸新幹線」です。「あさま」は2000年製、「北陸新幹線」は1996年製になります。

全く同じだと思っていたのですが、なんとパンタカバーと滑り止めの塗装が違うことが発覚。

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屋根の塗装が薄いグレーの「北陸新幹線」の方が2年間だけの製造なので珍しいはずなんですが、「あさま」の方が見つけづらい印象。どうしてなんでしょう。

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前面窓のクリアパーツも若干違います。「北陸新幹線」は黒く、「あさま」は青みがかっている感じです。

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動力台車も違います。「あさま」は秋田新幹線開業記念セット用に改修された台車となっています。改修後台車は金具押さえと先端の連結パーツ用の切り欠きが特徴。

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車体下側の青い部分は「北陸新幹線」の方が淡く、クリアブルーのような印象。実車に近いのは下の「あさま」の方ですかね。塗装の範囲も変わっています。車体の金型そのものは全く同一です。

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中間後尾の台車は車軸押さえのネジ留め部分が変更されています。

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「E2北陸新幹線」は秋田新幹線開業前の発売だったためか、実車説明文に「田沢湖新幹線」という見慣れない表記が見られます。

ちなみにJANコードが同じなので商品名と中身が違えど製品としては同一のものです。

以上、なぜか誰もやらなかった比較でした。

【プラレール】ライト付 0系新幹線と東京駅セット

東京駅の開業から100年、東海道新幹線の開通から50年経ったアニバーサリーイヤーである2014年。それを記念したセットが発売されました。

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ライト付 0系新幹線と東京駅セット

発売が発表された時は驚愕しました。常々出てくれないかなぁと思っていた0系大窓車がライト付で出るとなればそれはそれは期待大。逃したら絶対入手困難になると思って予約しちゃいました。思えばこの時ずいぶん久々に新品でプラレールを買った気がします。

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箱に記載されている0系と東京駅丸の内駅舎の説明文。子供向けのおもちゃなのに説明文が大人向けというか良くても小学校高学年向けに思えるのは気のせい。

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箱側面と裏面。

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駅のステッカー。駅舎の見た目だけ整えたかったのでホーム側のステッカーはそのまま残してます。

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レイアウトを組んだ状態。駅以外の情景部品もなくすっごくシンプルです。

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駅に停まる0系。特定の駅をモデルにした製品は他に鎌倉駅程度なので、情景部品としては珍しい立場にある駅です。

東京駅の復原が完成したからこの形で作られたのは分かるのですが、東海道新幹線開業時は今も忘れられぬ三角屋根だったのでちょっとちぐはぐな印象を受けてしまいます。

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ホーム側。どっちから進入してもホームいっぱいに停まるようにどちらの基盤(ベースと呼ばれています)にもストップ機能があるのが良いですね。部品共通化の産物でしょうけど。

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肝心の0系は2004年に発売された1000番台金型を基に大窓車化されています。光前頭が初期車のアクリルカバーを模しているのが最高です。

発売後しばらくはこのセットでしか手に入らなかった0系大窓車ですが、2017年にプラレール博限定品として単品発売されました。

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光らせるとこんな感じです。

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セット一番の目玉だと思っている中間車の16形。金色でドアが縁取りされた一等車、現在のグリーン車です。まさかここまで再現するとは思いませんでしたよ。

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先頭後尾はこんな感じ。非常口の再現もバッチグー。初期車特有のルーバーが少ないスッキリとした屋根も上手く表現されていて素晴らしすぎます。

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ちなみに駅のベースは往年のパネルステーション規格が採用されているので、このようにパネルを置くことも可能です。

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うーん、こっちの方が開業時っぽいな。新大阪のイメージ。

以上、最近の製品の紹介でした。ちなみに今年で発売から7年経つみたいです。もう最近ではない...?

【プラレール】C58じょうききかんしゃ

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(箱付き写真写真提供 藤山氏)

1970年に発売された「D51きしゃ」の金型を使って、1972年に「C58じょうききかんしゃ」が発売されました。

蒸気機関車らしくテンダー車を備え、旧型客車とセットになった、当時としてかなりシブい製品です。

発売期間は短く1974年に絶版となってしまったため、古い製品の中でも知名度は低いものと考えられます。

現在でもよく見かける旧型客車はこの頃に登場しました。

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テンダーと動輪が増えただけですが、その重厚感には目を見張るものがあります。

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サイドビュー。うーむ、素晴らしい。おもちゃらしくもあり実車っぽくもある絶妙なバランスを保ったデフォルメです。

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客車を増やすだけで渋さ倍増。貨物機のD51より客貨兼用のC58の方が客車列車が似合いますね。

この写真、分かる人には分かると思います。

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貨物列車にしてパシャリ。おおー、めちゃくちゃ似合うじゃないですか。さすが客貨兼用機。

セット品で「C58転車台セット」があり、更に製造時期によってスイッチの長さが異なる個体も見つかっています。生産期間が短いわりには奥が深いプラレールです。

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かっこいいナ。