プラレールの起源が判明したお話

プラレールは富山商事(→トミー→タカラトミー)が1959年に発売した「プラスチック汽車レールセット」を始祖とし、1958年に更にその元となる「ハイウェーセット」が発売されたという話を踏まえてご覧ください。
既存の情報も含まれます。
※2020/8/14 新情報発掘に伴い追記。及び本文修正。
※2020/10/12 追記。及び本文修正。



事の発端は3年前の2017年、プラレールの謎のポイントレールを発見した事に遡ります。

ジャンクの古いボロボロな1960年代のレールの寄せ集めに入っていたこのレール。まだ「プラレール」ブランド登場前で手転がし玩具だった時代のものです。
曲線の外側に出ていく線路があるレールという事しか分からず(見たままですが)。

使い道が分からないままだったところ、フォロワーさんが「スライドレールを繋げて床に下ろすためのアプローチなのでは?」という説を提唱。

なるほど、手転がし時代なので子供によってはレール上ではなく床上で好きに遊びたい子もいそうです。

特に調べられる事もなく進展も無さそうなので、このレールが再び表に出る事はなく部屋の奥底に眠る事になりました。

後日、たまごやき氏(@tamagoyaki205)が「それの未開封持ってますよ」と報告。

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写真はお借りしました。「プラスチック汽車レールセット」時代のもので確定ですね。ただ、遡れるカタログには載っておらず、確認できるプラ汽車セットにはいずれにも入っていないので、結局謎なままで終わりました。




あれから約3年。
先日、みっくん氏(@ftc_miyamoto)が「謎のレールが入ったセットを見つけたので購入してみました」とツイート。おっ、このレールの謎が解けるのでは?と期待しました。

んん?"Playskool"という名称のプラレールらしき玩具が発掘されてしまいました。例の謎のポイントもしっかり入っています。

ただし、レールの長さが若干異なるようです。(ここ重要)

そういえば、1959年発売の「プラスチック汽車レールセット」には「アメリカ プレイ・スクール社提携」と印刷されています。みっくん氏はプレイスクール社の製品を参考にプラスチック汽車レールセットを発売したのではないかと推測。

起爆。着火 缶 釈迦缶

そこで名誉会長さんが調査。するとこんな情報が出てきました。

プレイスクール社の前身と考えられる"Keystone Manufacturing Co."(キーストーン工業)が1950年に発売した「KEYSTONE "TOT" RAILROAD」という玩具。車両は木製のようですが、レールはどう見ても...

ちなみに、通説であった「プラレールのモデルはブリオレールウェイ」という話ですが、木製玩具ブリオの鉄道玩具参入は1957年。キーストーンはそれを7年も遡っている上に、当初からプラレールのレールとほぼ同じものを製造していた事が分かりました。

この流れで、キーストーン製の玩具をまとめたサイトが発掘されます。

Keystone Tot Railroad Set - Collecting Keystone

先に発掘されたセットとは異なるものですが、例のポイントが入っています。車両の連結器の形状も、プラスチック汽車の初期製品と全く同じです。(この点に関しては以前から「似た連結器を持つ玩具がある」と指摘があったみたいです)

ひとまず、プラレールの起源が1950年発売のキーストーン社の玩具である事が判明しました。では、どのようにして日本に渡りプラレールになったのかという話に進展。フォロワーさんたちが一斉に調査に乗り出し、以下の流れが判明しました。

ちなみに言わずもがな1950年当時の日本はGHQの占領下にあります。


タカラトミーの前身の前身、富山商事(TOMIYAMA)は1950年代にアメリカ向けにB29のブリキ玩具を輸出していた時期があり、玩具製造業として対米輸出に一定の地位を得ていたと考えられます。

1957年、富山商事樹脂玩具設計部門が設立されました。翌1958年、キーストーン社が玩具事業から撤退し、プレイスクール社に権利を譲渡した模様。

同年から1959年にかけて、プレイスクール社の子会社と考えられるリンカーンログズ社が、黒いレールに枕木モールドの入った鉄道玩具"New Tot Railroadset"を発売。これはプラレール規格ではあるものの独自の改良が加えられており、プラレールの系譜から分岐した製品になります。

同時期、プレイスクール社と関わりを持つようになっていた富山商事が同社と提携し、キーストーン社発祥のTOT RAILROADを国内向けに製造販売したものが「プラスチック汽車レールセット」であるとの結論が出ました。車両は国内向けに独自開発したものと考えられ、システムをそのまま流用したのがプラ汽車という事になります。ただ、キーストーンのものとは異なり、例のポイントは採用されませんでした。

これは輸出事業を行っていた富山商事がTOTを日本国内で製造していたから実現したのではないかと考えられます。(ちなみにリンカーンログズ社の製品は米国製です。)
プレイスクール社は60年代中に鉄道玩具から撤退したらしく、製品を日本が製造していたとなると国外向けになる謎のポイントレールは発売先が無くなります。規格自体は同じなので、少数だけ国内向けに販売してみたのが、上に載せたレールなのではないかという話でまとまりました。

[追記]
その後、プラ汽車時代に見られる日本語的に不自然な商品名やキャッチコピーは直訳そのままなのではという考察も出てきました。

後述するキーストーンの説明書。それを拡大してみると、"BRIDGE"というレールがあるのが分かります。立体交差用の坂を持ったレールです。
「橋」
プラ汽車時代から電動車普及初期にかけて、プラレールの坂レールは「橋レール」と呼称されていました。なぜ別に鉄橋が存在するのに、坂を「橋」と称するのかと不思議に思っていましたが、それはキーストーンのレール名をそのまま訳したからなのでした。

えちごやさんが「プラスチック汽車レールセット部品という名前に違和感」と発言。ブリオについてのサイトを引用すると、確かに訳すと「列車セット & 部品」という表現が見られます。
こちらもかなり信憑性の高い説なのではないでしょうか。


また、国外モノなら寸法も諸悪の根源ヤードポンド法なのでは?となり、換算してみたところプラレールのレール幅3.8cmは約1.5inchでした。あーあ。さてはヤーポン法出身だなオメー。



[追記]
直線レールの長さも半端な216mmに設定されており、これも換算すると約8.5inchになります。しかし、前述の通りキーストーンレールとプラレールではレールの長さが異なる事実があり、ここのinch寸法は要検証です。後述の将軍説が正しいのかもしれません。


つまり、タカラトミーが公言している「プラレールの規格は当時の日本では一般的だったちゃぶ台の大きさに合わせた」というのは若干のこじつけになると思います。


また、将軍(2020)はキーストーンとプラレールはレールの長さが異なるため、日本国内向けにちゃぶ台に合わせて改良した説を提唱しています。
これは今後の研究課題となるので、判明したらまた追記という形で報告させて頂きます。

[追記]
やっぱりちゃぶ台に合わせて改良したのは事実のようです。

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つまり、プラレールは日本で開発されたものではなく
アメリカの玩具を輸入して改良したものだったんだ!

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な...なんだって─────!!


という事で、プラレールの起源はアメリカにあったのでした。めでたしめでたし。








ちょっと待ってください(ウルトラQ)(石坂浩二)(SOS富士山)








有識者の皆さんなら御存知かと思いますが、プラレールの最初の製品は「プラスチック汽車レールセット」ではありませんでしたよね?

そうです。プラ汽車から遡ること約1年、「ハイウェーセット」なるものが発売されていたのでした。

かけさんが先日入手し、ツイッター上に詳細な写真を載せていました。木製の車とキーストーン規格のレールがセットになっており、車の裏には英語で車両の名前が印字されています。

英語?

レール自体はアメリカから来たものだと確定しましたが、ではこの車はどこから?しかも木製です。

この点に関し、海外のコレクター DucKGWR氏(@GWRDuck)がある木製玩具を発掘。


アメリカ・カリフォルニアのロサンゼルスにあったジャック・ビルド・トイ社が1950年代に発売したHIGHWAY and CONSTRUCTION Vehicle set(ハイウェイ&建物 車両セット)に、富山商事のハイウェーセットと全く同じ車が存在する事が判明。つまり、ハイウェーセットはキーストーン社のレールにジャック・ビルド社の車両を組み合わて作った製品という事になりますが、残念ながらどのような経緯でジャック・ビルド社の車両が取りこまれたのかは現時点で不明です。
ただし、ジャック・ビルト社の製品は日本からの輸出品だったらしく、またジャック・ビルド社はプレイスクール社と関わりがあったらしいので、レールと車が全く謎に出会ったという事はなさそうです。

2つのハイブリッド製品を作ってみたものの、結局元のキーストーン社TOTのように汽車のセットの方がウケるだろうと発売されたのが「プラスチック汽車レールセット」なのではないかとしたら... あくまで推測ですが、既存の考察とも似た話になる上に、ルーツが更に遡られた事で信憑性が増しました。


[追記]
レールの起源と車両の起源、日本国内での発展を考察したところで、再びレールの考察に戻ります。DuckGWR氏とみっくん氏が検証をしてくれました。

キーストーンの系譜から1958年頃に分岐した"New Tot Railroadset"(便宜上、黒レールTOTと呼ぶことにします)、その派生となる丸ジョイントの銀色レールTOT、プラレールの3種を比較。
明らかにプラレールの方が長く、起源は同一なもののどこかのタイミングで設計変更が行われたと思われます。

みっくん氏がプレイスクールとプラレールを比較。プレイスクールのBridgeはプラレールの橋レールよりジョイント分短く、また全高も低い事が確認されました。
やはり日本国内展開にあたり設計変更をしたと考えるのが妥当でしょう。

参考資料として、「ハイウェーセット」と「プラスチック汽車レールセット」の写真を同時に確認できる寅さんのツイートも載せておきます。
寅さん(2019)は箱のTPナンバーから通説よりも発売が前後してると推測していますが、TPナンバーの規則性は解明されていないので不明です。

[更に追記]

かけさんがハイウェーセット車両裏面に刻印を発見。1961年の刻印が確認されたため、今までの定説だった「プラレールの祖先なので1年程度の発売で消えた」という説、というより明確な資料が無かったため思い込みに過ぎませんが、否定される事になりました。電動プラ汽車発売前後で拡張性のないセットであるハイウェーセットは排除されたものと考えられます。







アメリカ国内では結局短命に終わってしまったプラスチックの手転がしレールトイ。日本では何故ウケたのでしょうか?






少し時代を下り、1961年。「電動プラ汽車セット」が発売されました。

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その独特な形状をした機関車はどう見ても日本の車両ではなく、「フリーランスデザインだ」だの「いやこれは満鉄ダブサ型だ」だの、以前から色々と推論が立てられていました。

しかし限界鉄オタにかかれば明白。これはドイツ国鉄の蒸気機関車、BR61形が一番近い形状をしています。

昨年、なんとなくドイツ国鉄の模型を調べていて行き着いたページを見てバリデカい声が出ました。

Fleischmann H0 - 1300
※リンク切れに伴い、webアーカイブのURLに変更しました。ただし、画像のキャッシュが無くなっています。

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電動プラ汽車...?お前、電動プラ汽車だよな?

フライシュマン。ドイツの鉄道模型メーカーです。そこが発売していた電動車およびゼンマイ車のHOゲージでBR61形が発売されていました。

もし、トミーの社員がこの模型をなんらかの手段で入手し、プラスチック汽車のレールに乗せて走らせていたとしたら... プラレール電動化の裏にはこんな話が隠されているのかもしれません。

トミーはトミーとて電動化には懐疑的だったらしく、1964年に発売された「夢の超特急」は手転がしと電動の2種類が発売されています。結局売れ行きが良かったのは電動車の方で、1970年のラインナップ見直しを境に、今日知るプラレールへと進んでいく事になります。

[追記]
念のため、プラレールが海外製品のインスパイアから完全な日本製品になるまでの製品を軽く紹介しますね。

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1964年、1000形新幹線・0系新幹線をモデルとして「プラスチック夢の超特急」「電動超特急ひかり号」発売。

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1968年、国鉄101系・103系をモデルとした「電動プラ電車」発売。

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1970年、EF15形をモデルとした「でんききかんしゃ」発売。他にD51形も発売され、以後は実車モデルのラインナップが増えていきます。

それと同時にプラスチック汽車と電動プラ汽車は日本の車両を再現した玩具というイメージにそぐわなくなるため、絶版となりました。

レールも新開発されたプラレール独自のものが続々と発売され、TOT時代から続くポイントと坂レールはリストラ。名残はレール規格にのみ残るようになります。




一つのレールが発見された事から新たに判明した事実。よく考古学で「以前発見された謎のものが実は歴史を揺るがす大発見だった」という話がありますが、正にそれがプラレールで起こるとは思いもよりませんでした。

ブランドとしては61周年を迎えるプラレール。元を辿れば今年で70周年になる完璧な規格玩具だったというわけです。




ハテ、ではその謎のポイントレールはどうやって使うの?という話をします。

https://www.worthpoint.com/worthopedia/vintage-1940s-keystone-toys-tot-1832823780

このサイトに載っているキーストーンの説明書。レイアウトプランが載っています。

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レイアウトプラン左上のものの右半分を再現。おお... 例のポイントはしっかりレイアウトに組み込めてしまいました。



今でこそ日本の代表的な鉄道玩具であるプラレール。国外展開もしていますが、元を辿ればアメリカとドイツのDNAが入った玩具だったのです。アメリカで生まれ、ドイツの要素を取り込み、日本で発展したプラレール

昨日一夜にして過去の情報を書き換えてしまった一連の流れ。プラレールの枠を飛び出し、玩具界の中でも大発見だったのではないでしょうか。


以下 まとめ追記

togetter.com

トゥギャッターでまとめて頂きました。

また、空転さんが新年表を作成してくれました。